「あと4、5人は先生がいればいいのに」
埼玉県所沢市で認可保育所など複数の施設を営む法人の理事長は、こう嘆く。
今年の春。入園希望者のうち受け入れられたのは約半数だった。園の定員にはまだ達していなかったが、定員いっぱい受け入れるには保育士が足りなかった。
「もっと受け入れたいが、今の保育士の数を維持するだけで精いっぱい」
なぜ足りないのか。記者が問うと「東京がなあ……」とこぼした。
「都内には、より好待遇な私立の園が多い。うちの園の見学に来る新卒の学生には、『都内を見てからまた来ます』と言われる」
昨年、新卒の保育士は一人も来なかった。
人材集めに奮闘 それでも都内に転職
保育士を集める工夫は、ずっと続けている。
県などの補助金を活用し、希望者に住居を借り上げ無料で住んでもらったり、新卒保育士に2年間働けば返済不要の就職準備金(20万円)を貸したりしている。インターネットに求人広告を出し、こうした取り組みをPRしてきた。
だが保育士は思うように集まっていない。それどころか、都内の施設に転職する人もいるという。「『都内の方が給与が上がるから』と同僚が移っていきました」と、施設で働く保育士(33)は振り返る。
都内への人材流出はこの法人だけの課題ではない。
「県保育協議会」の喜多濃定人会長は「全国的に保育士が不足し、都心へのアクセスがいい県南部の民間保育施設では東京に人材が流出している」と話す。
朝日新聞が県内の市町村長に実施したアンケートに、所沢市の藤本正人市長は、保育士が「東京都に取られてしまっている」。新座市の並木傑市長は、「東京都と隣接しているため、保育士の処遇に差があり、人材不足が常態化している」と回答を寄せた。
民間の保育施設で働く保育士の平均給与は、県内よりも都内のほうが高い。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、残業代を含めた昨年6月の平均給与は県内は26万2700円。首都圏で最低で、都内より約3万9千円も低かった。
平均給与は首都圏最低
要因はいくつかある。
まずは、民間施設への公的な…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル